ヘルススコアとは?基礎知識や設定方法について紹介!

カスタマーサクセスの一環として必要とされる「ヘルススコア」。しかし、具体的にヘルススコアとは何か、その設定方法や重要性はどのようなものなのか、理解できている方は少ないのではないでしょうか。この記事では、ヘルススコアの基礎知識から設定方法までを詳細に解説します。

実際に私自身もカスタマーサクセスの担当者として試行錯誤をしている領域ですので、
ぜひどなたかの参考になれば幸いです。

ヘルススコアとは?

ヘルススコアとは、サービスやプロダクトにおいて顧客の活用状況をモニタリングする際に使う指標です。数値が高ければ満足しており、低ければ解約のリスクがあるため、顧客の健康状態となぞらえて『ヘルススコア』と呼ばれます。この数値により、顧客の継続利用の可能性やアップセル、クロスセルの機会を予測することが可能になります。

ヘルススコアの重要性

ヘルススコアはカスタマーサクセスに携わるものとしては必ず知っておくべきことです。
ヘルススコアを適切に運用できればカスタマーサクセスの目的の一つであるチャーン改善は実現できます。

顧客の活用状況を理解する上で大事な指標

カスタマーサクセスは従来の受動的なカスタマーサポートと違い、能動的に顧客の負を発見し解決する必要があります。しかし、情報が何もなければ当てずっぽうになり、本当に連絡が必要な顧客に連絡ができないリスクがあります。

そんな課題を解決するために使えるのが今回のテーマである『ヘルススコア』です。
ヘルススコアを設定することで顧客が自社のサービスをどの程度活用しているか、また彼らがどの程度満足しているかを可視化します。
具体的には、自社サービスのログイン数から使用頻度を測ったり、特定の機能の使用回数を計測することで、活用状況を可視化します。場合によっては、既存顧客向けのイベントの参加や配信メールの既読などからも計測することはできます。

ヘルススコアとSaaSの関係性

ヘルススコアとSaaSは密接な関係性があります。
先述した通り、ヘルススコアを計測するためには自社のサービス利用状況をモニタリングする必要があります。しかし、過去の買い切り型のビジネスモデルでは購入後の顧客の利用状況や製品の継続的な満足度を測ることは困難です。

例えば家電メーカーであれば自社のテレビを購入したユーザーの満足度を測ろうと思うと購入時点のアンケートや口コミを頼る必要があります。ましてや各家庭でどれくらいの頻度で使われているかを計測するのはほとんど不可能です。
しかし、ネットワークを経由してサービスを提供するSaaSであればユーザーがいつ活用して、どの機能を何回使っているかをリアルタイムで計測することができます。

ヘルススコアを運用するメリット

先述した通りですが、ヘルススコアを運用するメリットを改めて整理します。

メリット① 顧客の解約の兆候を把握し、事前にフォローできる

ヘルススコアの低下は、顧客の解約の兆候となる可能性があります。これを早期に発見し、事前に適切なフォローアップを行うことで、解約を防ぐことが可能です。

実際に私もSaaSに携わって実感することですが、直近1ヶ月でログインがないユーザーには自動的にメール配信や個別連絡をしたり、連絡する内容も利用状況を把握しているので顧客の課題になりそうな点を予測して連絡したりすることも容易です。

実際に「何かお困りのことはありますか?」より「〇〇の機能利用が芳しくないですが、もしかして△△なことでお困りじゃないですか?」と具体的なヒアリングが可能です。しかも過去の顧客のデータを蓄積していればこのアプローチの精度や多様性も向上していきます。

メリット② アップセル、クロスセルのタイミングをつかめる

ヘルススコアが高い顧客はサービスへの満足度が高いため、新たなプロダクトの提案や既存サービスのアップグレード(アップセル)、他の商品やサービスの提案(クロスセル)の好機となります。

アップセルのパターン

例えば、各プランごとに使用上限が決まっているサービスであれば毎月毎月上限いっぱいまで使っているユーザーに対して、「現状の使用回数で足りてますか?」「プランのアップグレードorオプションで追加は必要ですか?」とアプローチすることができます。

このように使用回数ギリギリのユーザーはサービスに満足していますが、現状のプランに満足していない・もっとほしいと考えている可能性があります。もちろん顧客側から連絡が来る可能性も少なくはありませんが、LTVの増加を目的とするカスタマーサクセスであればあくまで能動的に動くことは忘れてはいけません。

クロスセルのパターン

クロスセルはそもそも他のサービスや商材を持っているかに関わってきますが、実はアップセルより事業上のインパクトは大きいです。というのも一つの領域の中で拡大していく縦の動きがアップセルであれば、クロスセルができることは、他の領域に展開していく横の動きです。

仮にマーケティングの予算が100万円だったとしてマーケティングツールにこれ位以上予算は割けないとなっても、セールスの予算であれば余裕があるというケースもありますよね?
この時自社がセールス支援のサービスを持っていれば顧客に対してより深い関係性を築くことが可能になります。

ヘルススコアを考える時のおすすめフレームワーク

DEARフレームワークとは?

DEARフレームワークは、米Gainsight社が提唱するヘルススコア設計のためのフレームワークです。Deployment(適切に利用開始できてるか)、Engagement(顧客との関係値は良好か)、Adoption(プロダクト・サービスの利用は定期的にされているか)、ROI(顧客の支払う対価に見合っているか)の4つの観点からヘルススコアを設計します。これにより、解約理由が反映されやすく、対策を講じやすいヘルススコアを構築できます。

Deployment

Deploymentとは、顧客がツールを適切に理解できているかを測る指標です。カスタマーサクセスでいえば、オンボーディングがこれに該当します。

契約当初から使いこなすことができていればひとまず使用する上での懸念はありませんが、仮に契約してから1ヶ月間使われていないようであれば顧客が使用状況を理解できていない場合や当初想定していなかったエラーが生じている可能性が浮上します。

Engagement

Engagementとは、顧客との関係性を測る指標です。直接的に解約に関係するところではないかもしれませんが、顧客の状況を把握する上で必要です。エンゲージメントが低い顧客の場合、社内で担当が変更されても連絡をもらえたりせず、こちらもそれに気づかないまま解約されてしまうことがあります。

顧客のエンゲージメントを測るためには、
・顧客との連絡頻度
・ユーザー向けイベントへの出席率

などで計測できます。

他にもNPS(Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)を使って直接顧客の満足度を測るのも有効な手段です。

Adoption

Adoptionとは、オンボーディング期ではなく、アダプション期(定着期)にサービスの利用状況を測る指標です。Deploymentと近い印象を持たれるかもしれませんが、Deploymentは導入直後(オンボーディング)に対してアダプションはそれ以降の利用期間を対象期間としています。どの機能をどのくらい使っているのか、どこで離脱してしまっているのか等、サービスが適切に利用され続けているかを計測します。

オンボーディングはうまく行っても半年後には使われなくなっているというケースもよくあります。
原因は様々ですが下記のようなことが主に発生している印象です。
・優先度が変わった
・担当者が変わった

・サービスでやれることが少なくなってきた

ROI

ROIとは、そのサービスを導入すること得られた成果がユーザーの払っている対価にどれくらい見合っているかを測る指標です。カスタマーサクセスはついどれくらい使われているかの使用率(Adoption)に目がいきがちですが、実際に顧客が求めているのは成果です。言ってしまえば、こちらが想定している使用回数より少なかったとして、その少ない回数で顧客が求めている成果が出ていれば顧客としてはOKなのです。

大事にしてほしい指標

私自身ヘルススコアの運用を上記に当てはめて設定するようにしていますが、重要度は
ROI=Adoption>Deployment>Engagement
という認識です。

これはもちろん人によって感覚は違うと思いますが、
Deploymentは継続して追うものではないので一旦除き、
Engagement = 顧客との関係値
Adoption = 使用頻度
ROI = 成果
と簡略化します。

仮に接点が少なくても、サービスを通して成果に繋がっている感覚をもっていれば顧客は基本的には継続します。しかし、顧客との接点があっても使用頻度が少なかったり、使用してても結局成果が出ていないと解約してしまいます。

私はサービスのあるべき姿は『そのサービスを使って成果が出る』という状態を作れていることだと考えます。むしろそれができていれば自ずと顧客のエンゲージメントは上がっていきます。

ヘルススコアの導入の5つのステップ

①顧客の理想状態を具体的に定義する

最初に、自社のサービスを最大限に活用できている”理想の顧客像”を定義します。その上で、各顧客が理想状態にどの程度近いかを測定するためのヘルススコアを設計します。

この時顧客のステージを意識することが重要です。
オンボーディング期・アダプション期・エクスパンション期のユーザーではそれぞれ理想とする状態は異なります。それぞれの状態にあったヘルススコアの基準を設けましょう。

②測定可能なデータの整理とヘルススコアの要素の決定

ヘルススコアの要素となるデータは、顧客の行動データや利用データなど多岐にわたります。これらを整理し、ヘルススコアの要素を決定します。ただし、データが多すぎると分析が複雑化するので注意が必要です。

このステップでよくある失敗が
・計測したい指標はあるがどうやって計測するのかわからない
・とりあえず計測できるものは全部しているがどれが重要がわからない
という状況です。

ヘルススコアで追うべき指標は多ければ多いほど良いわけではありません。むしろ莫大なデータを取り扱えるからこそ、どのデータがユーザーの重要な動きかを見極めることが重要です。

③ヘルススコア算出方法の決定

各要素の重要度に応じて、スコアの算出方法を決定します。単純な平均を取る場合もあれば、特定の要素に重みをつける場合もあります。

先述したDEARのフレームワークに例えれば、重要度の高いROIとAdoptionはそれぞれ30点ずつ、Engagementは15点と自分たちが重視するものに比重が多くなるように設定してください。
この時必ずしも100点満点で考える必要はありません。

④各スコアごとのアクション方法を決める

スコアが出た後のアクションを明確にします。
簡単に言えばヘルススコアが〇〇点以上であればこれ、〇〇点~△△点の間であればこれ、△△点以下であればこれと点数ごとにアクションを分けます。

定量的に設定することで各カスタマーサクセスマネージャーの定性判断でアクションをするしないという状況を割けることができます。ただし、ここで設定した区分やアクションが必ずしも正しいとは言えないです。定期的に見直す前提としてください。

⑤ヘルススコアを定期的に見直す

市場や顧客の状況は常に変化しています。そのため、定期的にヘルススコアを見直し、必要に応じて要素を追加したり、計算方法を見直したりすることが重要です。

ヘルススコア運用のあるべき姿は、点数が高いほどチャーンが低く、点数が低いほどチャーンが高い状態です。もしみなさんが運用していてヘルススコアが高い区分でも低い区分と同等以上のチャーンが発生しているのであれば、見るべき指標が違うか、比重が違う可能性が高いです。

まとめ

ヘルススコアは、顧客の状態を定量的に把握し、効率的なカスタマーサクセス活動を推進するための重要な指標です。
適切なヘルススコアを設定し、適切なアクションを設定できれば、持続的に成果を出し続けるカスタマーサクセスになれるでしょう!

よくある質問

Q1: ヘルススコアを算出する頻度はどのくらいが理想的ですか?

A1: ヘルススコアの算出頻度は、ビジネスの規模や特性によりますが、一般的には週次または月次が適切です。ただし、顧客の行動データがリアルタイムで取得できる場合は、随時更新することでより早い対応が可能となります。

Q2: ヘルススコアを計算する際にどんな項目を用いるのが良いですか?

A2: ヘルススコアを計算する際には、顧客の利用状況や満足度を反映する項目を用いると良いです。具体的にはプロダクトのログイン回数や使用頻度、他にもユーザー向けイベントの参加数などもその指標になります。

Q3: ヘルススコアが低い顧客に対してどのようなアクションを取るべきですか?

A3: ヘルススコアが低い顧客に対しては、直接コミュニケーションを取るなどして、満足度を向上させるためのアクションを考えるべきです。ただ全ての顧客に対して同じアクションを取るのは現実的ではないので、スコア区分やユーザーのステータスに応じてテックタッチ・ロータッチも活用しましょう。

Q4: ヘルススコアを上げるためには何をすべきですか?

A4: ヘルススコアを上げるためには、まずは顧客がプロダクトやサービスを最大限に活用できているか、その価値を十分に理解できているかを確認することが重要です。一度の打ち合わせやレクチャーで終わるのではなく、ユーザーの運用に乗っているかまでチェックすることが有効です。